川生だよーさんリクエスト(ほっこりけいお話)
迷子の子猫と頑固なおじいさん独り暮らしの正治(まさはる)さんは、近所でも有名な偏屈おじいさん。いつも眉間にシワを寄せ、庭の手入ればかりしていました。ある雨の日の夕方。庭のツツジの茂みから「ミャー」と小さな鳴き声が聞こえました。覗き込むと、泥だらけでずぶ濡れになった、手のひらサイズの子猫がこちらを見上げています。「おいおい、そんなところで何をしている。あっちへ行きなさい」正治さんは冷たく突き放そうとしました。しかし、子猫は震える足でヨロヨロと近づき、正治さんの長靴にペトッと体を寄せました。そのあまりの小ささと温かさに、正治さんは思わずため息をつき、首根っこを優しくつまんで家の中へ入れました。「今日だけだからな。明日には飼い主を探す」正治さんは古いタオルで子猫を包み、ゴシゴシと拭いてあげました。泥が落ちると、綺麗なミルクティー色の毛並みが現れます。お皿に温めた牛乳を少し分けてやると、子猫は夢中で舐め始めました。その様子を、正治さんは腕を組んでじっと見守ります。夜、正治さんが居間の座椅子に座ってテレビを見ていると、足元にモゾモゾとした感触がありました。見ると、さっきの子猫がトコトコと歩いてきて、正治さんの膝の上に飛び乗ろうと必死に爪を立てています。「こら、痛いじゃないか」口では文句を言いながらも、正治さんはそっと抱き上げて膝の上に乗せました。子猫は満足したように丸くなり、すぐに「グルグル……」と喉を鳴らし始めました。小さな体から伝わる、トクトクという心臓の音と温もり。正治さんは、もう何年も誰にも触れていないし、誰の温かさも感じていなかったことに気づきました。奥さんに先立たれてから、ずっと家の中は静かだったのです。「……お前、名前は?」もちろん子猫は答えません。ただ、正治さんのゴツゴツした指先を、小さなピンク色の舌でレロレロと舐めました。「そうか。お前もひとりぼっちか」正治さんの眉間のシワが、すうっと消えていきました。そして、何年ぶりかも分からない優しい笑顔を浮かべ、子猫の頭をそっと撫でました。翌朝、近所の人が庭にいる正治さんに声をかけました。「正治さん、なんだか嬉しそうだね?」正治さんはフンと鼻を鳴らし、少し照れくさそうに言いました。「いや、別に。……ただ、うちの『チャチャ』が、朝からうるさくてね」正治さんの肩には、お日様の匂いがするミルクティー色の子猫が、誇らしげにちょこんと乗っていました。
現実にわありません

