乗るしかないこの短編小説ウェーブに
「ボウリング」という競技がある。発祥はエジプトらしい––––
7月に入ってセミも鳴き出す夏休み。
同級生がカラオケだの旅行だのと浮かれている中、僕は学習塾の夏期講習。
「ガコンッ」
自動販売機から出てきたコーラを手に取って、一気に飲み干す。
「はぁ…」
そんなことを僕がこの学習塾の廊下で考えている理由を説明するには、1週間前に遡る必要がある––––
「なぁ、お前もボウリング行かね?」
貴重品を取って教室に帰ると、クラスの中心的存在のAに声をかけられた。
Aは中学に小学校からの友達が多いらしく、中学でもすぐに友達を増やして騒いでいる。
対する僕は声が出せず、友達作りなんてもってのほかだ。
なんでこの時Aが僕に声をかけたのかは正直僕もわからない。
おそらくノリかなんかで「全員誘おうぜ!」とかでもなったんだろう。
ひとまず断る。
「いやー…ちょっと夏休みは無理かな…」
僕は夏休みも塾で予定表が埋まっている。ボウリングなんて言語道断だ。言いたい気持ちをグッと堪えて、できるだけ穏便に言う。
Aは少し落ち込んだような顔をして、すぐ笑顔に戻って言った。
「そっか」
なんで一瞬落ち込んだような顔をしたのか。
真意はわからない。
チャイムが鳴って、会話はそこで終わった。
––というわけで、僕はこの時どうすべきだったかずっと考えているわけである。
––––もう少し柔らかい言い方をした方が良かっただろうか…
夏期講習も折り返しに差し掛かって、一日くらい遊べる余裕ができた。
LINEするべきか、それともそのまま過ごすか…
一度強く断った手前、すぐ「行きたい!」とは言えないような気がする。
Aならすぐ言えるんだろうか…
Aと違って優柔不断な僕はずっと頭の中でぐるぐるしている。
テキストを広げて宿題をするも、全く答えが浮かばない。
ボウリングのことを考えすぎて丸いものが全部ボールに見えてくる。
いつでもどこでも僕はぐるぐるできるのだ。
自慢になってないな。うん。
「…ダメだ。全く集中できない。」
ひとまず現実逃避でスマホを取り出して「ボウリング」と調べてみる。
「ボウル」は「bowl」と書いて、意味は「泡」や「こぶ」。
「こぶ」は、ボウルの方ではなく、ピンの方を表しているらしい。
つまり、「ボウリング」の「ボウル」は、「ボール」ではなく、「ピン」を表しているらしい。
…紛らわしいな。ボウルならボールにして欲しい。
そうこうしていると、日も暮れてきて、6時の鐘が鳴り始めた。
「やばっ!急がなきゃ!」
その日はスマホを置いて、宿題を大急ぎでやった。
翌日の塾…
「ここを移項すると5x−3x+24=5048になって––––」
先生の声を聞きながら、僕はまだAとボウリングについて考えていた。
…そもそも根本について考えてみよう。
なぜAは話したこともない僕を誘ったのか。
「全員誘おうぜ!」
やっぱりこれだろうか。
Aはクラスの中心人物だ。
小学校からの友達も多くて、いつも誰かと話している。
……でも。
そんなAが、僕みたいな人間をわざわざ誘う理由なんてあるだろうか。
…「本人に聞く」
そんな簡単なことを、僕は今更思い出した。
僕は廊下に出て、ポケットからスマホを出した––
あいつは、いつも無言で本を読んでいた。
いつも同じ窓際の席で、誰とも話さない。
別に寂しそうにしているわけでもない。
だから余計に気になった。
「何読んでんだろ」
一度気になり始めると、妙に目に入るようになった。
体育のときも、移動教室のときも、帰りの時間も。
いつも一人。
夏休み前になっても、誰とも話さず勉強。そんなあいつを、俺はどうしても遊びに誘いたかった。
深い意味があるわけじゃない。ただあいつが笑ってるのをみてみたくなっただけ。
だけどボウリングにあいつを誘ったら––
「いやー…ちょっと夏休みは無理かな…」
あいつは毅然と断った。その顔は心なしか不機嫌に見えて、俺は後頭部を殴られたような感覚になった。
中学になって少し羽目を外していた。その代償が来たのかもしれない。
あまりに無責任だった。人の都合も考えないで。
その瞬間俺はとてつもなく恥ずかしくなった。
けど、露骨にガッカリするわけにもいかない。
「そっか」
––できるだけ声を押し殺して言った。
今思えばものすごく申し訳ない。
今、あいつからLINEが来たら。
そんなことばかり考えてしまう。
僕は、スマホを取り出してAとのLINEを開いた。
一番下には未読が一つ。
「夏期講習終わった?」
…終わってないよ。
僕はAにLINEした。
初めて、ボールを投げられた気がする。
ボウルは、「こぶ」だけど。
あいつからLINEが来た。
恐る恐る画面を見る。
「やっぱボウリング行きたい」
……え?
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
思わず画面を二度見する。
そのままスマホを机に置く。
さっきまでの申し訳なさが、少しずつほどけていく。
よかった。
俺は椅子にもたれかかって、天井を見る。
ボウリングに誘っただけなのに、なんでこんなに疲れてるんだ。
たぶん当日は、あいつはまた無言で本を読んでいる。
そんなことを考えていると、なぜか笑えてきた。
今度は、あいつが笑っているところを見られるだろうか。
俺はスマホをもう一度手に取った。
画面には、
「やっぱボウリング行きたい」
の文字。
その文章を見ながら、俺は小さく笑った。
––Aからは思いの外早く返信が来た。
「もちろん!みんなにも伝えとく!」
––––最初からこうしてればよかったな…
頭の中でまたぐるぐるを展開しつつ、またチャイムが鳴って僕は笑ってスマホをポケットに入れた。
ボウリングは練習した方がいいだろうか。
今からでも悩むことは山ほどある。
…僕はつくづく優柔不断だ。


おーっと ( (
とてもいいです
おーっとは下手って意味では全くもってないです ! !
あざます
発想が素晴らしい!